トップページ目次無職男の優雅な生活 1

第1節 プロローグ

亡くなった親の財産で優雅な生活を送る滝間(タキマ)ヒロシ。42歳。どことなく阿部寛似。
滝間は生まれてこの方、一度も働いたことがない。
親の脛をかじり悠悠自適に暮らしてきた。
その上、異様にプライドが高く、彼は無職であるということを一度たりとも悪いと思ったことがない。

 

両親が他界してからも一生贅沢して暮らせるほどの株を保有し、己は株の知識が全くないが、パソコンで株価が上がっていると確認しては、ステータス欲しさにまだ手にしていないクレジットカードを新規で作り、カード会社の受付譲に「お宅様のカードはプラチナでございます」と言われることを至福の喜びとしていた。

 

持ち家は親が亡くなったあと親族に譲り、一人高級マンションの12階に住んでいる。
家族なし、彼女なし。ペットさえもいない。
あるのは綺麗に手入れされたアンティークの家具類。
それらを眺めながらベイプをくゆらすのが彼の日課だった。
夜になるとワインを傾け衛星中継を観ながらほくそ笑む。
「女子アナって言うのはレースカーテンのような生き物だな。自分の裸体を想像させながら視聴率を稼ごうということが透けて見える」
不潔だ。実に不潔だ。

 

滝間はご近所から変人に見られている。
朝、主婦に混じってゴミを出す彼は、引っ越してきた当初は顔がイケメンということもあって主婦たちの注目の的ではあったが、燃えるゴミに、少しだけプラスチック容器が入れてある程度で彼に注意される主婦が続出し、結婚指輪はしておらず、普段着のまま、ゴミを出し終わるとそのままエレベーターに乗って部屋に戻るため、主婦たちの憧れの目線が逆噴射するかたちで、変人扱いされるようになったのである。

 

主婦カオリ現る

 

朝、ゴミ置き場で主婦カオリと鉢合わせた。
滝間は周りの主婦たちからの評判がよくないことを承知していたので、名誉挽回したい気持ちがあった。
最近、彼をを見る目に拍車がかかって棘があるからだ。
だが、5階に引っ越ししてきたばかりの主婦カオリは違っていた。
ご近所付き合いの浅い彼女は、滝間をダンディの眼差しで見ていた。
滝間もまた、彼女が自分のほうを好意的にチラチラ見ていることに気づいた。

 

「やあ。」

 

滝間は思い切って声をかけた。

 

「最近、越されて来たんですか?」

 

「12階にいらっしゃる方ですよね」

 

「どうして俺を?」

 

「やっぱり覚えてないですよね。1回一緒にエレベーター乗った時があったんですよ。その時12階押されていたから」

 

「あー、そんなことがあったんですか」

 

滝間は何年かぶりに照れた。
そしてお互い簡単に名前の交換を済ませ、

 

「そうそう、ここの扉錆び付いて開きにくくなっているんですよ。ゴミそこ置いといてください。俺捨てときますから」

 

と笑顔を作ったその時、近所の小学生が現れた。

 

「やーい、変人!」

 

滝間は顔が引きつった。

 

「やーね、僕。人にそんなこと言ったらいけないんだよ」

 

カオリは小学生に目線を合わせると、その子にやさしく注意した。

 

「やーい、だって変人なんだもん」

 

その時、エレベーター先から別の主婦が手刀を作り、両腕を上下させながら走ってきた。

 

「たっちゃん!ダメじゃないそんなとこ居ちゃ。さあ、学校のお時間よ」

 

主婦は息子の手を引っ張りいそいそと出て行った。

 

「小学生って元気があっていいですよね」

 

カオリは笑った。

 

「じゃあ、私はこれで失礼します」

 

滝間に丁寧に頭を下げるとエレベーターまで向かった。
すると先程の小学生の母親がまだいて、カオリに耳打ちした。

 

「顔がいいからってあんまりあの人、相手にしちゃダメよ。変な人なんだから」

 

「そうですか?素敵な方でしたけど」

 

「最初はみんなそう思うのよ。そのうち口うるさくなっちゃうんだから」

 

主婦カオリは微笑んだ。

 

「例えそうだとしても、私はいいですけどね」

 

 

 
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